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2015年2月14日土曜日

サブリースするべきか、しないべきか、それが問題だ。

 一年以上ぶりの更新である。

【はじめに】
 実は最近不動産投資にハマっている。これから貨幣価値が下がっていくことを考えて投資したわけだが、これがなかなか面白く、不動産を吟味する楽しさに目覚めてしまった。不動産投資家向けのWebサイトもあり、自分が欲しいと思う物件の条件を登録しておくと、それにマッチする物件情報をプッシュ通知してくれたり売主と買主をマッチングしてくれる。(ちなみにこのサイトを運営する会社が近々株式上場するということで、新規公開株の抽選に応募したのだが見事に外れた。くやしい。)

【サブリースとは】
 マンション投資をする上での最大のリスクは、空室である。空室になると家賃が入ってこないので、ローンも払えなくなる。破産への第一歩である。そのリスクを回避するための方法の一つが「サブリース」である。サブリースとは、不動産管理会社がマンションを一定期間借り上げ、空室になろうが毎月定額の収入を約束するという契約である。その代わり毎月賃料の10〜15%を不動産管理会社に支払う。いわゆる転貸である。

【損得の分かれ目】
 ここで、サブリースをするべきか、しないべきかを確率的に考えてみたい。現在僕がサブリースを検討しているマンションの平均空室率を調べると、およそ2ヶ月であった。これはつまり、退去が発生したら2ヶ月の空室を経て新しい入居者が決まる、ということである。次に、想定するサブリース料は賃料の10%とする。例えば、賃料が60,000円であったら6,000円がサブリース料となり、54,000円が家主の収入となる。つまり、10ヶ月間のサブリース料で家賃まるまる1ヶ月分となる。もし20ヶ月間サブリースをした場合、サブリース料は家賃まるまる2ヶ月分となり、サブリースをせずに、退去が1回発生したのと同じことになる。(サブリース料:60,000円 x 0.1 x 20ヶ月 = 120,000円、家主の収入:60,000円 x 0.9 x 20ヶ月 = 1,080,000円)。つまり、賃借人が20ヶ月以上入居し続けてくれるならサブリースをしない方が良いのだ。

【入居し続けてくれる確率】
 では、賃借人が20ヶ月以上入居し続けてくれる確率はどれぐらいなのだろうか?公益財団法人日本賃貸住宅管理協会のデータによると、2014年度上期の首都圏・一般単身(学生除く)の平均居住期間は、1〜2年が3.4%、2〜4年が75.9%、4〜6年が19.0%、6年以上が1.7%、である。賃借人が20ヶ月未満で退去してしまうということは、先述の3.4%の賃借人と契約したということである。賃借人の96.6%は2年以上入居してくれるということなので、現在検討している物件ではサブリースの恩恵はあまり受けられそうにないことが分かる。
 では次に、この先10人の賃借人が現れるとして、先述の3.4%の賃借人と契約する確率はどれぐらいだろうか?この確率は二項分布に従う。
P[X=k]=\binom{n}{k}p^k(1-p)^{n-k}
 この先n人の賃借人のうち、出現確率pの賃借人とk回契約する確率である。では、10人の賃借人のうち出現確率3.4%の賃借人(1〜2年で退去する賃借人)と0回契約する確率(契約する全賃借人が2年以上入居してくれる確率)は、
(n=10, k=0, p=0.034)
P[X=0]=\binom{10}{0}0.034^0(1-0.034)^{10-0}\approx 0.71
 ということで、10人の賃借人のうち約71%の確率で全賃借人は2年以上入居してくれるということが期待できる。この場合も、サブリースの恩恵はあまり受けられそうにない。n=20までプロットすると以下のようになる。賃借人20人で約50%といったところだ。

【おわりに】
 公開されているデータから単純に比較するとこのようになる。しかし実際には、サブリース自体が空室率が低く抑える要因(サブリースした物件が空室になって一番困るのは管理会社であるので、管理会社は必死で空室にならないように動く)でもあり、また管理会社選びによっても空室率は左右されるし、退去時の諸費用を管理会社が負担してくれるか否かでも恩恵の考え方は変わる。あくまでも参考として考えてほしい。

2014年1月8日水曜日

カタンのもやもやをカイ二乗検定で解消する

 最近、カタンの開拓者たちというボードゲームをやり始めた。これはプレイヤー同士で資源を稼ぎ合い取引し自分の文明を発展させていくゲームである。このゲームはサイコロの目によって資源の配給が変わる。したがってサイコロの目が勝敗を左右する重要なポイントとなる。サイコロは1~6の通常の六面体のものを2つ使い、その合計値がキモとなる。つまり、2~12の目が出るということである。この場合、サイコロを振って出る目の合計は各試行で独立であるため、出目の確率は次のようになるはずである。

出目 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
確率 \frac{1}{36} \frac{2}{36} \frac{3}{36} \frac{4}{36} \frac{5}{36} \frac{6}{36} \frac{5}{36} \frac{4}{36} \frac{3}{36} \frac{2}{36} \frac{1}{36}

 ところが実際にゲームをやってみると、サイコロの出目に偏りがあるように感じてしまうのである!6, 8の陣地を押さえているのに資源が全然入ってこないとか! これは思い込みなのか被害妄想なのか本当にサイコロの重心に偏りがあるのか、今回はそれを確かめる。
つまり、「これらのサイコロの出目には偏りが無い」という帰無仮説H_0を立て、カイ二乗検定によって判断するのである。サイコロを1000回振り出目の合計を観測した。 結果は以下のようになった。

出目 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
試行結果X 29 45 91 120 158 179 132 100 67 51 28

 先述の通り、サイコロの出目がランダムであるならば、期待値Eは次のようになる。

出目 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
期待値E 27.8 55.6 83.3 111.1 138.9 166.7 138.9 111.1 83.3 55.6 27.8

 これらのデータからカイ二乗検定によって試行結果が妥当なものであるかを確かめる。 カイ二乗値は次のようになる。カイ二乗値とは、試行結果Xと期待値Eの差を二乗して期待値Eで割った値を合計したものである。

出目 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 カイ二乗値\sum\frac{(X-E)^2}{E}
\frac{(X-E)^2}{E} 0.052 2.021 0.712 0.713 2.626 0.908 0.343 1.109 3.190 0.381 0.001 12.055

 この実験でのカイ二乗値は12.055となった。これを自由度k=10, 有意水準p=0.05のカイ二乗分布と比較する。カイ二乗分布表を参照すると、18.307である。この結果、12.055<18.307であるため、「これらのサイコロの出目には偏りが無い」という帰無仮説は棄却されず、サイコロの出目については有意差は得られなかった。

 サイコロはほぼ期待値通りの目を出しており、「資源が入ってこない!」「サイコロがゆがんでいる!」という思いは単なる被害妄想だったのである。


2013年7月2日火曜日

事後確率とモンティ・ホール問題

 ベイズ確率でいうところの事後確率の例として、モンティ・ホール問題はよく用いられる。何も情報がないとき(事前確率)と、ドアが開けられるという情報を得たとき(事後確率)で確率に変化があるためである。

 3つのドアをA, B, Cとし、それぞれが当たりである確率をP(A), P(B), P(C)とする。まず、何も情報がないとき、すなわち司会者がドアを開ける前の状態ではP(A)=P(B)=P(C)=\frac{1}{3}である。仮に自分はドアAを選択し、司会者がBのドアを開けたとする。つまり「Bがハズレである」という情報を得たのである。この情報をDとする。つまり、条件付き確率P(A|D)およびP(C|D)が、それぞれドアAに留まる場合およびドアCに変更する場合の事後確率となる。

 まずは、P(A|D)をベイズの定理と確率の加法・乗法定理でこねくり回していく。
P(A|D)=\frac{P(D|A)P(A)}{P(D)}=\frac{P(D|A)P(A)}{P(D, A)+P(D, C)}=\frac{P(D|A)P(A)}{P(D|A)P(A)+P(D|C)P(C)}
 ここで、P(D|A)はAが当たりだった時に司会者がBを開ける確率のことであるので、P(D|A)=\frac{1}{2}。同様にP(D|C)はCが当たりだった時に司会者がBを開ける確率のことであるので、P(D|C)=1である。これらを代入すると、
\frac{\frac{1}{2}\cdot \frac{1}{3}}{\frac{1}{2}\cdot \frac{1}{3}+1\cdot \frac{1}{3}}=\frac{1}{3}
となる。というわけで、ドアBが開けられた後にAが当たりである条件付き確率P(A|D)\frac{1}{3}である。同様にP(C|D)を考えていくと、
P(C|D)=\frac{P(D|C)P(C)}{P(D)}=\frac{P(D|C)P(C)}{P(D, A)+P(D, C)}=\frac{P(D|C)P(C)}{P(D|A)P(A)+P(D|C)P(C)}
となる。同様に代入すると、
\frac{1\cdot \frac{1}{3}}{\frac{1}{2}\cdot \frac{1}{3}+1\cdot \frac{1}{3}}=\frac{2}{3}
となる。というわけで、ドアBが開けられた後にCが当たりである条件付き確率P(C|D)\frac{2}{3}である。

 このように、情報Dが得られたことによってドアCが当たる確率P(C)=\frac{1}{3}は事後確率P(C|D)=\frac{2}{3}へと変化するのである。